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黒猫(1)

チャン・イーモンとの再会を果たした翌日、恵理子は宿泊するホテルで一日中テレビを見ていたが、グランドハイアット北京で遺体が発見されたというニュースは全く報じられなかった。恵理子はネットに接続して各新聞社のサイトを見て回ったが結果は同じだった。
グランドハイアット北京のような一流ホテルで、チャンの遺体がまだ誰にも発見されていないとは考えられないから、ニュースが流れないということは、マスコミが事件の報道を見合わせていることになる。中国のマスコミは共産党の厳しい監視下に置かれている。チャン・イーモン殺害のニュースが報道されないのは、中国共産党の何らかの意図が働いているに違いない。ノートパソコンをシャットダウンした恵理子は不吉な予感がした。

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翌日のニュースでもチャン・イーモンの事件が報じられることはなかった。もはや中国共産党がマスコミにかん口令を敷いているのは確実だった。その意図が何なのかは分からないが愚図愚図している暇はない。早く目的を達成して中国を脱出しなければ命の危険があった。その日の深夜、恵理子は行動に移った。
ワン将軍ことウー・チンタオの隠れ家は、かつて恵理子が暮らしていた日本人居住区のすぐそばにあった。恵理子は中国無罪党の財務を管理する会計士のパソコンに侵入し、この隠れ家の住所を突き止めたのだ。
次に恵理子はこの会計士の帳簿ファイルから隠れ家のセキュリティーを担当する警備会社を突き止め、サーバーの侵入に成功した。恵理子はワンの隠れ家の間取り図と防犯システムを掌握した。

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深夜三時過ぎ、恵理子はワンの邸宅に到着した。この辺り一帯は富裕層の大邸宅が建ち並ぶ閑静な住宅街である。その中でもひと際大きな屋敷の高い塀を恵理子は軽々と乗り越えた。ここに来る直前、恵理子は警備会社のサーバーにあらかじめ準備しておいたプログラムを送信し起動させておいた。セキリュティーシステムは書き換えられ、現在この屋敷は、鍵を掛け忘れて家族で食事に出掛けた家並みの無防備さだった。
恵理子は警備会社のサーバーに保管されている間取り図からワンの寝室が何処なのかを推測し、最も厳重なセキュリティーが敷かれている二階南端の部屋に違いないと目星をつけた。恵理子はその部屋に最短で行ける建物裏側の扉に手を伸ばした。

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電子ロックが機能していない扉は簡単に開いて、恵理子は屋敷内への侵入に成功した。窓から漏れる微かな月明かり以外はほぼ完全な暗闇の中で、恵理子の胸は高鳴った。ついに父と母の仇をとる瞬間が訪れて、体中の血が煮え滾った。
深い息を吐いて昂ぶる気持ちを落ち着かせ、行動に移ろうとした瞬間、月明かりが消えた。眩いばかりのサーチライトが一斉に焚かれたのだ。
恵理子の目が暗闇から閃光に慣れるのにほんの一瞬時間がかかった。恵理子が細めた目をサーチライトの方向に向けると、人民解放軍の軍服を着た五人の兵士たちが恵理子に機関銃を向けていた。

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二階南端の部屋は、恵理子は目論んだとおりハンの寝室だった。二十畳ほどの広さの洋室は足元には厚い絨毯が敷かれ、天上から豪奢なシャンデリアが吊り下がっている。恵理子はそのシャンデリアに両手首を縛られた。
壁際に置かれたソファーに二人の初老の男が座っている。左側の男は人民解放軍のモスグリーンの制服を着ている。胸ポケット上のおびただしい数の勲章からして、かなり位の高い男なのだろう。
その隣に座る男の姿を見た瞬間、恵理子は戦慄を覚えた。
日本で愛国無罪党の調査をしていた時、恵理子はワンの写真を何とかして手に入れたいと思ったが、膨大な時間、ネット上を調査してもワンの写真は一枚も見つからなかった。恵理子は世界最高峰のハッカー技術を持つ中国人にも調査を依頼したが結果は同じであった。恵理子はハンの顔も知らずにこの屋敷に乗り込んできたのだが、軍人の隣に座る男がハン将軍ことウー・チンタオに違いないと確信を抱いた。

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ハンは恵理子の想像よりもかなり小柄で、痩せた体格をしていた。中国裏社会に君臨するドンにしては随分と貧相な体で、貫禄のかけらも感じられない。ハンは蓄えた口髭を擦りながら、軍人と談笑していた。
「リー参謀長、今回はお世話になりましたな」
「いやいや、我々は当然のことをしたまでです。偉大なるハン将軍の身にもしも何かあったら、中国の安全を任されている我々は首を吊らなきゃなりません」
リー参謀長は鼻の穴から葉巻の煙を吐き出し、シャンデリアに縛られている恵理子を勝ち誇った視線で見上げた。
「ところでこの日本人の野良猫をどうなさるおつもりです?部下に始末させましょうか?」
「いやいや、そこまでお手を煩わすことはできません。私が自分の手で始末しますよ」
ハンのその言葉を聞いて、リー参謀長は脂ぎった顔面に卑猥な笑みを浮かべる。
「私より年上だというのに、全くハン将軍の体力には感服するばかりですよ」
リー参謀長はソファーから立ち上がり、部屋の外で待たせておいた兵士を引き連れて屋敷を後にした。恵理子は寝室にハンと二人きりになった。頭の中でベッドのスプリングがきしむ音とリー参謀長が最後に残した言葉が反響して、恵理子の顔色がなくなった。

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[ 2012/01/19 00:30 ] 妄想小説 | TB(0) | CM(1)

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[ 2012/01/19 15:02 ] [ 編集 ]

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